神聖ローマ帝国とは?ハプスブルク家との区別

動画【5分で世界史】

こんにちは。Naganomayuiです。

私は高校教員でしたので、
YouTubeで、【5分で世界史】という動画を作っています。


今回は、神聖ローマ帝国のわかりにくさ
解決していきます。


神聖ローマ帝国って、何を隠そう、
私が高校時代に、最も苦労した国でした。


だって、意味わかんないですもん。

・お前「ローマ」とか言いつつ、どう見てもドイツじゃん。
 とか、

・ハプスブルク家、何者?
 とか、

・「帝国」って名前、盛りすぎじゃない?
 とか、

まあ色々思ってたわけです。



これ全部を解説しようとすると、
もう長い長いページになってしまうので、

今回は、
「ハプスブルク家との区別」
に着目して、解説しています。


動画はこちら。5分程度で見られます。

【5分で世界史】神聖ローマ帝国とハプスブルク家との違いが、結局わからない人向け解説


さて、このページでは、
ハプスブルク家との区別を、詳しく説明していきます。

皇帝の権力っていうのが、一体どれくらいのものなのか、解説することで、
皆さんの「国」に対する誤解を解いていきたいと思います。

世界史を勉強するときに陥りがちな「思い込み」

さて、神聖ローマ帝国を理解するために、

まずはみなさんに、
大きな思い込みを、捨ててもらわなくてはなりません。


その思い込みとは、

  • 国ってことは、ちゃんとした国境があるはず
  • 国ってことは、みんな王様の家来のはず

これです。


国境があって、強い王が治めている「国」のイメージっていうのは、
世界史の中では、むしろ少数派なのです。


だから、神聖ローマ帝国に挑むときは、
「全然知らん奴が来た」
くらいの意気込みでいきましょう。

国っていう言葉の先入観を消してください。

  • 国ってことは、ちゃんとした国境があるはず
  • 国ってことは、みんな王様の家来のはず

これらは、思い込みですよ。
これを心に刻んで、読んでみてください。

神聖ローマ帝国がわからない理由

まず、
神聖ローマ帝国がわからなくなる原因を
3つほど挙げます。

たぶん身に覚えがあると思います。

  1. 皇帝が何者なのかわからない
  2. いつ滅んだのかわからない
  3. どこを治めているのかわからない

この3つは、本質的には同じことです。

要するに、
国としての区切りが難しいんですよね。

そう、国のあり方が、
みなさんの持っている「国」のイメージと
かなり違うのです。



大抵の場合、
神聖ローマ帝国とハプスブルク家との
混乱が生じています。

だから、そこを区別すればいいわけです。

選挙王政:王は領主から選ばれたリーダー

まずは「選挙王政」という制度を知りましょう。

各地の領主から、王を選挙で選ぶ
ってことです。

これは、東ヨーロッパによくある体制です。


神聖ローマ帝国も、
この制度で皇帝を決めています。


ですから、まずこれを押さえてください。

神聖ローマ帝国の皇帝は、世襲制ではありません

選挙ですからね。毎回違います。



さて、
選挙で皇帝を選ぶと、
その皇帝と、領主との関係は、とても複雑になります。

例えば、
隣り合った土地を治めているA氏とB氏。
今日からA氏は皇帝になります。
でも、やっぱりB氏とはお隣さんです。

これからA氏は、B氏とお隣さんとして良い関係を続けていきつつ、
でも、皇帝という立場上、まとめたり、お願いしたり、時には命令したりしないといけませんよね。

すごくやりづらそうじゃないですか。


皇帝としてうまくやっていけたら、
自分の息子も皇帝になれるかもしれません。

でも、自分がうまくいかなかったら、
息子は選ばれない。

これもプレッシャーですね。



こんな感じです。
けっこう、大変じゃないですか?

領主との関係が大事になりますよね。
上から「ああしろ!こうしろ!」じゃ、だめなわけです。


そう、王は地方領主のリーダーのようなものです。

重要ポイント①
「王になったからといって、
領主にあれこれ指図できるわけじゃありません」

だって王様とはいえ、
他人が支配している領域は、他人のものなのです。

重要ポイント②
「王になったからといって、
領地が全土に広がるということはありません」

神聖ローマ帝国の、全土を支配しているわけではないのです。



部活動に例えましょう。

部活動の地区大会を運営するために、
その地区の部長が集まって、
地区代表生徒を決めるとします。

選ばれたのは、Ö高校のHくん。
(Öってオーストリアの頭文字です)

彼は、今年度のその地区のリーダーではありますけど、
実際は、Ö高校のことしか分かりませんよね。

「地区全体のイベントをします!協力してね!」と、
他校の部長に、協力をお願いすることはできます。


でも、となりのP高校の練習方法に、
こまごまと口を出すことはできないんです。

それはP高校の部長の役目ですよね。


彼は地区全体の支配者ではありません

Ö高校のHくんは、
P高校やS高校の部長とも、いい関係を築かなければ、
次は選んでもらえません。

それどころか、最悪の場合、
途中でリーダー交代もありうるのです。


選挙王政はそういうシステムです。


つまり、
神聖ローマ帝国全土を支配している皇帝など、いないんです

ハプスブルク家とは何か

神聖ローマ帝国では、
地方領主の中から、選挙で皇帝を決めるのでした。

じゃあ、
神聖ローマ帝国=ハプスブルク家
みたいになっているのは、なぜなのか


それを確かめていきましょう。


実は、ハプスブルク家も、
神聖ローマ帝国の地方領主です。

あまりに強すぎて
ある時期から毎回毎回、皇帝に選ばれるようになった
・・・というだけです。


どういうことでしょう。


神聖ローマ皇帝は、選挙とはいいますが
なんだかんだ、よく選ばれる一族がいる場合が多いです。

さっきの例で言うと、
いつもリーダーをやってくれる強豪校」みたいなものですね。


そういう一族がぜんぜんいないと、
皇帝の力が弱くなりすぎて、
神聖ローマ帝国としてのまとまりが不安定になってしまいます。

実際にそうなってしまったのが、13世紀後半頃です。
この頃を「大空位時代」といいます。

皇帝はいましたよ?
いましたけど、
凄くリーダー力が弱くなっていたのです。


それはいけないということで、
このあと、選挙システムが変わります。


これまでは全員で皇帝を選んでいました。
けれどこれからは、
「限られた7人の有力者が、皇帝を選ぶ」
というシステムになります。

「7選帝侯」といいます。

どうして、そんな制度にしたのかというと、

「めちゃくちゃ権力のある7人が納得して皇帝を選んだんなら、
皇帝として、色々面倒な問題が起こっても、
7人と連携してうまくやっていけるはず」

と考えたからです。


確かに、権力のある7人と繋がってたら
皇帝も、他の諸侯と交渉しやすくなって、
神聖ローマ帝国をまとめやすくなるでしょうね。



ハプスブルク家が世界史に登場するのは、この頃です。

ハプスブルク家は、
オーストリア周辺を治める一族
です。

少しずつ力を増やしてきました。


この後、7選帝侯によって、
毎回、皇帝に選出されるようになります。

実際は世襲ではないけれど、
まあ次もハプスブルク家ですよね
みたいな状態になっていく
わけです。



だから受験生にこういう誤解が生じます。

「神聖ローマ帝国=ハプスブルク家」

違うんです。
毎回選ばれ続けているだけです

ハプスブルク家の領土≠神聖ローマ帝国の領域

さて、領土について整理をしましょう。

皇帝になったときも、
ハプスブルク家の領土は、
神聖ローマ帝国とイコールではありません



神聖ローマ帝国だけど、他の人が治めている土地もあれば、

ハプスブルク家が治めるようになったけど、
神聖ローマ帝国とは関係ない、という土地もあります。


たとえば、
ハプスブルク家は、よその王家と結婚しまくっているので、
あるとき、スペインの王になります。

スペインとか、西の端ですよね。
もともと、神聖ローマ帝国とは、なんの関係もない場所です。

スペインは、ハプスブルク家が治めることになったけれど、
神聖ローマ帝国ではないわけです。


ネーデルラント(オランダのあたり)なんか複雑です。

最初は、
・神聖ローマ帝国に所属している一族の領土
・ハプスブルク家ではない

婚姻によってハプスブルク家領になるので、
・神聖ローマ帝国に所属
・ハプスブルク家の領土

ハプスブルク家が、オーストリアとスペインに分裂し、
ネーデルラントはスペイン領に入るので、
・神聖ローマ帝国ではなくなる
・ハプスブルク家の領土ではある(ただしスペインの方の)


うわ。
時代によって全然バラバラですね。

全部覚えないといけない!と焦る前に、
これだけわかっておきましょう。


いいですか。
皇帝の領土≠神聖ローマ帝国の領域


神聖ローマ帝国全土を支配している皇帝など、いないのです



ここがわかると、
神聖ローマ帝国が解体する時も、
混乱しなくて済みます。


神聖ローマ帝国の解体は、1806年。
フランスのナポレオンが、ヨーロッパ全土に手を広げていた頃です。

ハプスブルク家のフランツ2世が、神聖ローマ帝国皇帝を退位し、
神聖ローマ帝国は消滅します。


ここで、多くの人が、
「あ、ハプスブルク家は滅んだんだな」
と、思ってしまいがちですが、


でも、そんなことないと、今ならわかりますよね。


神聖ローマ帝国って、いわば領主の連合ですから、
帝国の消滅というのは、連合の解消みたいなものです。



皇帝の領土≠神聖ローマ帝国の領域
ということは、

神聖ローマ帝国が解体しても、
各領主の領地は残ります


つまり、
ハプスブルク家とその領土は残っていて、
やっぱり、その後も変わらずオーストリア周辺を治めているんです。



Q「え、神聖ローマ帝国って、なくなったんじゃないの?
なんでオーストリアに、まだハプスブルク家がいるの?」


A 神聖ローマ帝国が解体したからといって、
ハプスブルク家が滅んだわけではない
から。

神聖ローマ帝国がわからない理由【解決編】

さて、最初の疑問に戻っていきましょう。
3つの疑問がありましたね

  1. 皇帝が何者なのかわからない
  2. いつ滅んだのかわからない
  3. どこを治めているのかわからない

ひとつめ
Q. 皇帝が何者かわからない
A. ハプスブルク家の人ばっかり選ばれているから

ふたつめ
Q. いつ滅んだのかわからない
A. 神聖ローマ帝国が解体しても、ハプスブルク家は滅びないから

みっつめ
Q. どこを治めているのかわからない
A. 複合国家なので、ハプスブルク家の領土≠神聖ローマ帝国領だから

※複合国家というのは、小国がまとまった国ってことです



ね。
ハプスブルク家との区別が重要でしたね。

ポイント:国の支配は「点」→「面」

いかがですか。

神聖ローマ帝国は、一般的にイメージしてしまう「国」とは、けっこう違いましたよね。

  • 選挙で王(皇帝)を選ぶ「選挙王政」
  • 毎回選ばれる「ハプスブルク家」
  • 皇帝の領地は、領主として持っていた土地のみ
  • 婚姻で、帝国と関係ないところに、領土を持ったりする

この辺りが、
神聖ローマ帝国をわかりにくくしているのです。

でも、これは別に、
神聖ローマ帝国だけが、特殊なのではないのです。


そもそも、私たちは、
国について、大きな「思い込み」を持っているのでした。

  • 国ってことは、ちゃんとした国境があるはず
  • 国ってことは、みんな王様の家来のはず

このイメージというのは、
もう少し後の時代、
「絶対王政」の頃にできた、国の形態です。


それまでは、どうだったのか?
どうやって、現代のような「国」の形になってきたのか?

それぞれに見ていきましょう。

「国ってことは、ちゃんとした国境があるはず」

国境って、実はかなり曖昧ですよね。

現代でも、国境問題は沢山起きていますし、
境目には、混血の人もいるし、
本当は、綺麗に国と国を分けることなんて、できません


なぜなら、人はどこにでも住むから


けれど、無理矢理にでも国境を引くのは、
「誰が管理しているか」を、はっきりしたいからです。

境界線を引くことで、
内側の土地や人から取れる富を、確実に手に入れられるし、
外の権力が干渉してくるのを、防ぐことができます。



ということは、
「ちゃんと管理しないと損する」という状況になるまでは、
境目を決める必要はなかったのです。




境界線を引くというのは、
「面」で支配するようなもの
です。

それまではどういう形だったのかというと、
「点」で支配していた、という感じです。


そもそも文明は、
人々が集まることで生まれます。

人が集まるところに、支配者が生まれます。

そういう街(都市)を、まとめて支配する、大きな支配者が生まれます。

こういう風に王が生まれるとすると、
王が支配しているのは、都市とその周辺だけですよね。

都市と都市の間の、森や草原や沼地などは
厳密に「ウチのです」って主張してない
わけです。


もちろん、交易がスムーズになるように、都市間の道を管理したり、
税を取るために、農村を管理したりすることはありますが、

境目は曖昧なところが多いです。

なぜかというと、
よっぽど魅力的な土地でもなければ、
厳密に領土を区別しなくても問題ないから




星座をイメージしてみると、わかりやすいかもしれません。

「オリオン座ってどれ?」って言われて思い浮かぶイメージって、
点と、それを結んだ線ですよね。

じゃあ、星が見えないところはどうします?
線と線で囲まれた、真ん中のあたりは、まあオリオン座でしょうけど、

その下にあるうさぎ座との境界線とか、
はっきり設定しなくても、問題なさそうじゃないですか。
だから、最初は気にしないのです。


最初はね。




そう。
最初は、なんとなくでやっていけても、
運営していくうちに、沢山の問題が生まれてきます。

境目の取り合いが起きたり、
人口が増えて、いろんなところに住み始めたりすると、

これまで適当でよかった「境界」を
厳密に管理する必要が生まれます




実は星座も、現在は単に「点と点を繋いだもの」ではありません。
20世紀になってから、きちんと境界線が設定されたのです。

なぜかというと、
技術が進化したせいで、望遠鏡を使えば
ものすごく暗くて遠い星も、見えるようになったから。

「その暗い星はどこにあるんですか?」って聞かれたとき、
「○○座の星です」って言いたいですよね。

でも、オリオン座とうさぎ座の間の星々を、
どちらの星座に所属させるかなんて、
これまで決めてなかったのです。


「んー、オリオン座の左足とうさぎ座の耳のあいだで、
ちょっとうさぎ座の方に近いくらい!」
とか言うの、超めんどくさいですよね。


ですから、点と点を結んだだけじゃなくて、
星座と星座の境界線をきっちり引いて、
厳密に管理しないといけなくなります。


今は、星座は境界線で区切られていて、
どんなに暗い星であっても、
オリオン座の領域にあれば、オリオン座の星とみなされます。



国の場合も同じで、
最初は、大きな拠点を抑えてさえいれば、
大体の人やモノは管理できていた
のです。

でも、だんだん、支配が拡大するにつれて、
境目の問題が多発し、
境界線が必要になっていきます



「お前のとこに住んでる○○さんが、
ここら辺の土地を開墾して自分の土地だって言ってるんだけど
ここって、ウチの都市に近いし、
盗賊を取り締まってるのはウチの軍隊だし、
ちょっと、どっちかはっきりしよう?」

みたいなことが、
個人レベル、領主レベルで起こりまくり、

そのうち、国王レベルで境目を決めはじめるのです。


国同士の約束事として、
国の境界や政府の権利を認め合った
のは、
1648年のウェストファリア条約からです。

「世界初の、大規模な国際会議」
だと言われます。



逆に言うと、それまでは、
人々も、どこに所属してるのか曖昧だし、
土地も、点と点でしか把握されていないし、
都市から遠い田舎とか、いちいちみてないわけです。


そして、この頃は、
王も領主も、あんまり違いがありません。

「国ってことは、みんな王様の家来のはず」

国というと、中央の政府が国中の人々を支配している、
ピラミッド構造のイメージがありますが、

実際のところは、そうでもありません。


支配される者にもメリットがあるから、
支配者は、支配者となる
のです。

例えば、
いうことを聞く代わりに、周りの強者から守ってくれるとか
武力を差し出す代わりに、土地をくれるとか
金をおさめる代わりに、自由に商売をさせてくれるとか。
乱れた世に、ルールを作ってくれるとか。


支配者は、
必要とされるからこそ、生まれるのですが、
どんな風に必要とされるかは、時代や状況によってさまざまです。


そうすると、
支配する側とされる側の関係も、
いろんなバリエーションが生まれ
ます。

強い力で、強力なルールを敷いて、
全土を直接支配する場合もあれば、

地方の有力者と個人的に契約して、
そこの政治をほぼ任せてしまう、という場合もあるでしょう。

「領主のリーダーとして、王を決定しよう」
という、神聖ローマ帝国のようなパターンもあるでしょう。



先代とはうまくやっていたけど、
今回の王は頼りないから従わない、とか

建前上は王となっているけど、
実際に政治をしているのは別の一族、とか

ウチの地方は、二つの国の境目だから、
両方の国王と契約しとこう、とか

そういうこともあり得ます。


つまり王はリーダーとして、
どのように地方の勢力と付き合っていくか、
きちんと見極めないといけない
のです。



ヨーロッパの国々で、王が強大な力を持ち始めたのは、
ローマの教皇が、国の政治に口出ししてくるのを嫌がったからです

教皇は、宗教の最高権威者なので、
宗教問題を中心に、国のことに色々と口出しをしてきます。


「うちの問題だから、入ってこないでね!」
って、はっきり主張したいときは

内側の連帯を強くすることで、
外に対抗する必要があります。


その手段の一つとして
王の権力を強めて、一つの国としてのまとまりを強くした

という風にも、考えることができます。




国の境界や、中央政府の権限をはっきりさせるのは、16世紀以降の西洋の考え方です。

大航海時代以降、西欧の国々は、
その考え方で世界各地を分割していくので、

アジアやアフリカ、アメリカ大陸にも、
西洋風のルールが広がります。


そんな歴史を辿って今に至るので、
現在は、そのルールに則った国の形が、
世界で当たり前になっているのです。



ですから世界史を勉強するときは、
現代の「当たり前」を疑うことを
大切にしてください。



世界史の説明は、そのうち、一つのページにまとめる予定です。
わからない単語があれば、ぜひ色々と読んでみてくださいね。

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